母のいない夜

風邪などひいた事のなかった元気な母がめずらしく寝込んだ。
すぐになおるさ と思っていたのに、咳がいつまでも止まらず、呼吸をするたび肺が嫌な音を出す。
近くの病院に入院する事になった。歩いて数メートルの病院。とっても近いんだけど・・・
母のいない生活は初めて。
母のいない家の中は静まり返っている。

いろんなことに気が付いた。
まず、家に帰って来て・・・いつものように思いっきりドアを開けようとしても、冷たく拒否される。
あたりまえの話。鍵かかってんだから。(かぎっ子経験なし)
誰かの脱いだ靴下が、次の日もそのまた次の日もそのままそこにある!
父が毎日同じ服を着ている。
新聞がテーブルにたまっていく。
お風呂のそこがヌルヌルする。
灰皿が灰の山になってる。 などなどなどなど
そういうことみんなだれがすんの?って感じ。なんて今まで考えなしに生きてきたんだろう。

私は過保護に育てられてるとそれまでもよく言われましたが、高校2年にもなって、何一つ出来ない人に育っておりました。
それを身をもって自覚させられる毎日が始まりました。
それは、次の章でお話しします。


人生には何度かの転機がある。
私にとっての最初の転機が、母の病気によってもたらされたのでした。
さて、母が入院してからの毎日はというと、悪戦苦闘その一言。
そんな私の状況を見かねて、 入れ替わり立ち代り、親戚やご近所さんがやってきては、
いろいろと世話をやいてくださいました。
そのお陰で学校から帰ってから夕食くらいまでは結構にぎやかだったかもしれません。

でも、問題は夜です。
昼間にはなんとも感じなかったのに、夜になると、漠然とした不安が襲ってきて、眠れなくなる。
家の中が静か過ぎて、夜の暗闇に押しつぶされそうになる。
何度も何度も寝返りを打って、とうとう起き上がって家を出る。
そぉ〜っと抜け出して、歩いて数メートルの母のいる病院へ。
もちろん鍵がかかっていますから、中に入れはしないんですが、それでも母の病室の真下に立って、
小さな小さな声で「おかぁ〜さぁ〜ん」 と呼んでみる。そして、ため息ついてから、帰ります。
涙は出なかったけど、空を見上げてため息ばかりついておりました。
母のいない夜がいつまで続くんだろうかと考えたら、自分が夜の闇にすっぽりと取り込まれてしまって、戻って来られなくなるんじゃないかって気がしました。

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