人工呼吸器


親族を呼んで最後のお別れをして下さいと言われた。
初めて顔をあわすような遠縁の親族までもが、駆けつけてくれた。

あわただしくたくさんの人が出入りする。 

病室には3人以上入ってはいけないといわれる。部屋の酸素量が減るからだと。
酸素マスクをしてるのに?????

順に最後のお別れの挨拶をした。
母はもがきながらも1人1人と目を合わせ、途切れ途切れに言葉を発した。
「ありがとう。」「がんばって」そして何故か 「心。 こころ」 と繰り返す。

数分おきに採血がある。
そのたびに落ちていく酸素量。そしてチアノーゼ。

父が先生に呼ばれる。
人工呼吸器を挿入するという話。
良くあるのは、気管を切開して(喉に穴をあける)そこから酸素を送るというのであるが、今の母にはその時間がない。
何よりもとにかく確実に酸素を肺に入れる為に、口から気管支の方へと直にパイプを通すというのだ。
だが、パイプを喉に通す時に心臓にかなりの負担がかかり、そのことが原因で命を落とす事が少なからずあるということらしい。
先生はそれでもそうするしかない、もう一つの選択肢は確実な死であることを説明されたようだ。
イチかばちかにかけるしかない。
「覚悟してください」ということだ。その日父は何度も覚悟を決めた。

全員が病室の外に出される。
そんなに危険な処置がされていることを知っているのはほんの数人だったろうと思う。
私にはとにかく何も知らされない。
何のために廊下へ出たのかもわからず、ただ、親戚のおばちゃんが売店で買ってきた菓子パンを無理やり口に押し込んだのを覚えている。

数分後だったのか数時間後だったのか?
病室のドアが開く。
そこに横たわっていたのは、もはや私の知る母の姿ではなかった。
横たわる物体のようだった。
声はでない。手足は縛られている。
口からはパイプが飛び出していて、口元というより、顔の下半分は、肌色のテープでグルグル巻きにされている。
まるで異質な生命体のようだ。

機械で強制的に呼吸をさせられている母は、上手く呼吸器とリズムがあわなくて、機械の方から、ビービ-と、嫌なエラーによって絶えず警告を受けている。

生きようとしているのか、生かされているだけなのか??
もちろん生きようとしていたに決まってるんだけど、まるで生かされているとしか思えない様子だった。

とにかく、母の心臓は止まることなく、人工呼吸器は確実に酸素を運び出した。

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